日本のどこかにあるスーパーマーケットの店長、その名も猪熊店長。
なんだかすごく強そうな名前の店長とパートさんの日常の会話です。
「実は、3年前から、皆んな諦めちゃってるんです」
塩崎さんがクリスマスケーキの販売数最下位リストを見ながらため息をつきました。
「3年前に何かあったんですか?」
「実は、近くに美味しいケーキ屋さんができたんです」
「そういうことですか……」
「それで、お客さまがそちらに行ってしまって、
皆んなのやる気もなくなっちゃったていうか…。
頑張っても、どうせってなっていったんです」
だけど、塩崎さんは続けて言いった。
「でもね、私、売れると思うの。
だって、ここ、スーパーでしょ?
オードブルやお惣菜、ワインだって、
一緒に買えるじゃない?
宅配もやってるし、高齢のお客さまや、
小さいお子さんがいるご家庭は、
助かると思うのよ」
一通り話した後、塩崎さんが猪熊店長を見ると、
いかついガタイにしては
可愛いすぎるほど目をキラキラさせていた。
「塩崎さん、ありがとうございます!
そのような方がスタッフの中に1人でもいらっしゃることが、1番大事なことなんです!」
そして、ガタッと椅子から立ち上がると
「一緒に頑張りましょう!!」と和かに言った。
「……は、はい」
塩崎さんは180センチはあろう猪熊店長を見上げ、
「あー!めんどくさいことになっちゃった〜…!」
と心の中で呟いた。
その日から早速、
猪熊店長のクリスマスケーキ大作戦が始まった。
天井から『クリスマスケーキご予約中』の吊りPOPを下げ、窓ガラスには、ポスター並べて貼った。
お惣菜売り場の横のわずかなスペースに、
テーブルを置き、パンフレットも並べた。
もちろん毎日の朝礼でも、
目標個数と、予約状況をみんなに伝えた。
その力の入れように、どの部門のリーダー達も
「猪熊店長、上からケーキの予約取るように、
強く言われているの?」
「ノルマ達成しないと、買わされるとか?」
とヒソヒソと話していた。
塩崎さんは、それを聞いて
「私がすごいやる気あるアピール
しちゃったからかなぁ」と言えずにいた。
猪熊店長の奮闘ぶりも虚しく、
1週間で取れた予約は1件だった。
猪熊店長がお客さまに声を掛けても、
「大丈夫です。
もう他のケーキ屋さんって決まってるんで」
と断られ続けていた。
レジをしながら
そんな猪熊店長を見た塩崎さんは
心が痛くなった。
「猪熊店長が1人で頑張ってる。
これでいいのかなぁ。」
15時頃になり、
お店がアイドルタイムに入ったとき、
塩崎さんは猪熊店長に言った。
「…店長!すみません!!
そのやり方じゃ売れません!」
「「え!?し、塩崎さん!?」」
あまりにハッキリと店長にダメ出しをした塩崎さんに、
惣菜部のおばちゃんや、
他のチェッカーもビックリした。
「まず、POPを書いてください!
そして、クリスマスの造花を買ってきてください!売り場が楽しくありません!!」
すると、それを聞いた惣菜部のおばちゃんが、
赤と白のクリスマスに映えそうな
テーブルクロスを手に持って出てきた。
「猪熊店長、これも使ってくださいよ。
そんな殺風景なテーブルじゃあ、
ケーキの予約なんてしてる感じがでないよっ!
ほらほらパンフレットどかして!
敷いてあげるわよ」
そして、猪熊店長の後ろから、
事務さんが、ビニール袋に入ったクリスマスモールを持ってきた。
「実は、4年前買って、
そのときから使わずに倉庫に眠ってたんです。
使ってなかったんで、綺麗ですよ」
そこに副店長がやってきた。
「皆んな集まっちゃってどうしたの。
おお!そのクリスマスモール、懐かしいねぇ〜!」
「あんたね!懐かしいねぇじゃないわよ!
ほら、あっち側持って、手伝いなさいよ!
夕方のお客さまが予約してくれるかもしれないでしょ!」
「おー怖っ。はいはい」
「皆さん…!ありがとうございます!」
「ちょっと猪熊店長!?
泣くのは目標達成にしてからにしてくださいよっ!さぁ早くPOP書いてきてくださいっ!」
塩崎さんが思わず突っ込んだ。
さて、猪熊店長の
クリスマスケーキご予約の
巻き返しはなるのか!?